琥珀色の誘惑 ―日本編―
『殿下、マイ様をご自宅まで送り届けて参りました』

『――ご苦労』


寝室のカーテンは全て開けられ、大きな窓からは柔らかい春の光が射し込んでいる。
天蓋付きのベッドも綺麗に整えられていた。


ミシュアル王子がいるのは窓の外……そこはヨーロッパアンティーク調のガーデンテーブルとチェアが置かれたバルコニーだ。

日本の首都が見渡せる素晴らしい眺めである。
周囲にはバルコニーの人物を狙撃できるポイントは存在しなかった。 


ブロンズ色のテーブルには小さめのコーヒーカップがひとつ。
ソーサーがないのは忘れたわけではなく、元々ないのである。

カップの中にはアラビア・コーヒーが注ぎ込まれていた。

アラビア・コーヒーは日本のコーヒーとはまるで違う。
そのカルダモンの強烈な香りは、初めて飲む者の顔を顰めさせた。衣類に使う防虫剤の匂いに似ているという。

その芳醇な香りを味わいながら、ミシュアル王子はカップを口に運ぶ。


(舞ならどんな顔をしたであろう……)


こんなものは飲めないと自分を困らせたであろう姿を想像し、寂しげな笑みを浮かべる王子だった。


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