琥珀色の誘惑 ―日本編―
ベッドの上で女を啼かせるのは大したことではない。
男心を知る女は、慎み深い姿を見せるために『ノー』を口にする。
身をひとつにすれば、悦びに震えて涙が流し、愛と忠誠を誓うのだ。

だが、シーツが濡れるほど泣く女はいない。



ミシュアル王子は舞を宥めようと、可能な限り譲歩した。


「判った。では言おう――私はお前を愛している。愛により、結ばれたいと望む。さあ、これで文句はないだろう」

「イヤッ! そんなのいや……嫌いよ。アルなんて、大嫌い!」


愛している――その言葉は、ミシュアル王子のような身分の高い男性が口にするような言葉ではない。

主にキリスト教圏の女を得る為には必要だと聞いたが、彼に限っては無用のことだ。

愛を請うのは女であって男ではない。
男は愛を形にして与え、女は感謝の思いを込めて奉仕する。

それが、クアルンの王族に共通する考え方であった。


そんなミシュアル王子が意を決して口にした“愛”という言葉を、舞はいとも簡単に拒絶した。


その時、彼は知ったのだ。
何をもってしても、ミシュアル王子の望む『愛と尊敬』を舞から得ることは不可能である、と。


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