琥珀色の誘惑 ―日本編―
仕事の関係だろうか、父は省エネにうるさい。

冬場はホットカーペットの下に保温マットを敷いたり、夏場のエアコンも扇風機と併用だ。
冷蔵庫にはビニールの内カーテンが付けてあり、待機電力はこまめにカットさせられる。

リビングにはシーリングライトが付いていた。
オートエコ調光なんていう優れた機能も付いている。だが、ほとんどリモコンで一番小さい光量にセットしてあった。

それが……どうやら、光量のボリュームを最大に上げているらしい。
 


そしてその灯りの下、ソファに三人の男性がいた。

いや、正確にはひとりがソファに座り、他のふたりはその背後に立っている。

皆、黒っぽいスーツを着ていて、座っている男性は日本人、背後のふたりは外国人に見えた。


だが、彼らが父の賓客であることは間違いない。

なぜなら、テーブルの上に置かれたコーヒーカップはマイセンだ。
母の大事なコレクション『ブルーオニオン』のシリーズで一客三万円近くするという。

舞や遼は触ることも許されない特別な品である。



「殿下。お待たせ致しまして申し訳ございません」


父が妙にへりくだった声で、詫びながら頭を下げる。

仕事なのだ、ということは舞にも判る。
それでも、父親のそういう態度は、子供にとって見ていて愉快なものではない。


(でんか……電化? お父さんはエネルギー関係の仕事だから、電力会社の人?)


自宅に戻り、初めてのビールが軽~く頭に回り始めたのかも知れない。

舞は頭の中がふわふわして考えが纏まらなかった。


ところが、父はそんな舞を客の前にグイと押し出した。


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