My Little Baby【短編】
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「ねぇ遼、飲みすぎじゃない?何かあったの?」

夜も更けてきたこの時間、店内の客はだいぶ少なくなりカウンターに座っているのは数人だけで、薄暗い照明が独特の世界を作り上げる。

「‥べつに何も」

耳に残る甘ったるい声にそっけなく返し、グラスに残る強いアルコールを一気にあおった。

何もない。
何も考えたくない。

いつもより明らかに飲みすぎたアルコールは、確実に思考能力を奪っていくが、一番忘れたいことは一向に忘れさせてはくれない。

「ふぅん‥ねぇ、遼?」

顔を動かすことなく、視線だけちらりと向ける。

紅くきっちりと引かれた口紅とマニキュアの輝く長い爪が、魔女のようだ、といつも思う。

会社の同僚ではあるが、かなり前から自分に気があることは知っていた。

あんな美人に迫られて羨ましい、と仕事仲間によく言われるが、よりによって同じ会社の同僚と遊んでやる気はない。

上等の獲物を狙うような目で俺を見るような女だ。後々面倒なことになることは目に見えている。

真剣に交際する気などこれっぽっちもないのだから。

欲しい、と強く思うのはみちるだけだ。

結局、たどり着くのはみちるのことばかりで。

あきらめの悪い自分にまたイライラする。

「今日、泊めて?」

腕に絡みつく細い腕と、耳にかかる甘ったるい吐息を拒む理由は、今の俺にはなかった。



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