My Little Baby【短編】
絡みついてくる腕をそのままに、アパートの階段を上がる。
「意外なところに住んでるのね。遼ならもっといいトコ住めるでしょう?」
「‥‥」
つまらないことを。という言葉を口には出さず、ちらりと視線を向けただけで沈黙を守る。
確かに会社での俺の地位を知っている奴から見れば、この小さなアパートは多少違和感を感じるのだろうが、そんなことはどうでもよかった。
みちるの家から近いこと。
あいつがいつでも来れる距離であること。
それ以外はどうでもいいことだったから。
そんな俺の態度が気に入らなかったらしい。
「!‥ふ、」
グイッと両手で顔を向かされたかと思うと、唇を押しつけられた。
入り込んで来た舌を絡めて応えてやる。
好きじゃない女とのキスはこんなにも無機質で、つまらないものだっただろうか?
やけに頭が冷えていく。
みちるとのキスはもっと熱くて。
もっと甘くて。
もっと―――
「‥‥っはぁ」
力が抜けたらしい女の体がずるりと落ちそうになって、片手で腰を支えてやる。
反対の手で口を拭うと赤い口紅が手の甲に張り付いていた。
「‥部屋、行くか」
冷めきった瞳のままで顔を上げると、部屋の前で呆然とこちらを見つめる人影に気がついた。
「み、ちる‥‥」