絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ

阿佐子の心情

 二度と会わないと覚悟を決めた榊と、まさかの再会を果たしたのに、阿佐子がいたお陰で前回までの出来事は、全て白紙になったかのようであった。彼と2人きりでの再会ならそうはなってなかったに違いない。やはり、3人だからこそ、あの、樋口阿佐子からの突然の誘いがあったからこそなのだ。
 またしばらくしたら、彼女の運転でドライブに行ってもいい。危ない運転をするとばかりふんでいた2人だったが、そのハンドル捌きはなかなかのもので、シートベルトも特にいらないと感じられるほどであった。
 今度はこちらから連絡をしよう、そう、ひと月くらいしたら。その時は、彼女が普段行かないような庶民の美味しい店を紹介してもいいし、ホームエレクトロニクスがどんなところか見せて、どんな感想を言うのか聞いてみてもいい。
 彼女は滅多に行かない、いや行ったこともないかもしれない電気専門店を見てなんと言うのだろう。
「楽しそうなところね」
 いや、そうは言わない。
「どういうところが楽しいの?」
 あ、少しは言いそう。
「テレビにこんなに種類が? どれでもいいわよね。私あんまり見ないの」
 うんうん、想像するだけで楽しい。
「昨日は随分遅かったみたいだけど?」
 笑顔で聞いてくるのは、もちろん宮下。あのロンドンの日以来、毎日何かしら連絡をとるように心がけているようだ。今夜も既に午後11時を回っているが、明日の昼からの出勤までの時間を一緒に過ごそうと、一週間も前から提案してくれていたのである。こちらの月シフトの休日申請も、一日だけでも本社が休みの日に合わせてもらうように少しお願いしたし、お互いそれなりに努力を続けてきている。
「うんそう」
 本日の仕事帰り、スカイラインの助手席に乗って、向かうは東都マンション。明日の昼までは少しゆっくりして帰ろうと思っている。
「幼馴染がいてね、3人で一緒に食事して。ほんと、6年ぶりだったから。皆が揃うの」
「いいね」
「うん。そのうちの2人は仕事関係なんだけど。もう、皆で集まれることなんてないと思ってたから……」
「それにしても6年ぶりでも、なかなか会ってる方だと思うけど」
「そうだね……」
 何も、具体的に話すことはない。
 すぐにマンションに着くと、2人はそれぞれに手荷物を持ち、慣れた部屋へと向かう。
 だからといって、体の関係が必ずしもあるわけでなはい。
 宮下は必ずその空気を見事に読む。
 さすが、空気を読む仕事だけあって、プライベートでも抜かりはない。
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