絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅱ
 午後7時。予定通り就業をいつものように終えると、とりあえず一旦外に出てぶらぶら買い物をしてから午後9時すぎにまた駐車場に戻った。今日は暇だったから時間通りに出てくるはずだ。
「おまたせー」
 予定通り9時15分にシーマの助手席に乗り込んで来た香月は、こちらが口を開く前にすぐに本題に入ろうとする。
「何々、どうしたの!?」
「何が?」
 まっすぐ前を見たまま、ハンドルを握る。
「何がって、なんか、変だったから」
「だから何が?」
 香月が俺の一体何を見ていたのか、知りたくてあえてその口から言わせようとする。
「なんか、落ち込んでる? 真剣な相談っぽい?」
「何でそう思うわけ?」
「いやなんか、あんまり食べに行く気なさそうだから」
「あ、予約忘れてた。けど、今日はラーメンじゃなくてパスタ行くよ。香月が好きなディアーズ」
「あそう……」
 ちらと助手席を見ると、制服のスカートからストッキングの膝が見えた。そんなの、いつものことだと、さっと前を向く。
「ちょっとまあ、相談があってな……」
「何?」
 香月の声色が真剣になったのが、顔を見なくてもすぐに分かる。
 そんな香月と俺の仲だから、悩みを打ち明け、相談しておきたかったことがある。やさしい彼女ならそれをどうにか良い方向へ進めてくれるはずだと、そう信じて。
「うん……。俺の家、幼馴染の学生がいるって言ってたじゃん? 覚えてる?」
「うん」
 ルームシェアなんて、本当は柄ではない。他人が一軒家に間借りして住むなんて、どう考えても下心以外にありえないと、ふざけていると、テレビを見てずっと思っていた。女同士でルームシェアする姉もそう、ちょっとした知り合いと住むってどう考えても面倒くさそうだ、と。
 それが一年前、まだ実家近くの店舗に勤務していた時、偶然姉の家からものの5分の東都本店に転勤になったと同時に、姉も海外に出張になった。姉の後窯でいいやと思ったのは、単に引っ越しが面倒だったというのもあるが、幼馴染の専門学生、由香が住んでいることが分かったからでもある。誓って言おう、下心はなかった。気安い相手が一人でもいるのなら、とりあえずそこでいいかと、家賃も姉の口座からそのまま落ちるし、と、仮家族が始動したのである。
 そこで住み始めて、早くも一年近くが経過した。
「家で何かあったの?」
「まあ……」
 香月の次のセリフは安易に予想できた。
「その中の誰かとデキた、あるいは二股」
「お前、俺のことどんだけ最低な男だと思ってんだよ」
< 68 / 202 >

この作品をシェア

pagetop