主婦だって恋をする

翌日、俺は大学の食堂で一人の女子学生に声をかけた。

ランチタイムで混雑する食堂の中、彼女の周りだけ空気が止まっていて……

そこに座っている彼女は、一輪の百合の花のようだった。



「……隣、いい?」


「いいわよ。佐久間君」


「あれ?俺のこと知ってるんだ。涌井さん」


「みんな知ってるわ。最近すごく格好良くなったって、女の子たちの注目の的だから」



長い黒髪が印象的な彼女、涌井香織(わくいかおり)は、同じ学年で一番の美女と言われている。

だけどその容姿とは別のことでちょっとした有名人だ。



「それは俺が今夢中になってる女性のせいだと思うんだけど……そのことで、少し相談が」


「なあに?あなたもまさか不倫?」



涌井さんは……既婚者の男性と付き合っている。


そのことを彼女自身が吹聴しているわけではないけれど、どこからかそんな噂が流れて彼女も否定しなかったので、あっという間にそれは事実として学部内に広まっていた。


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