惑溺
 
逃げ出すようにエレベーターホールまで走り、ボタンを押してやっと息を吐き出した。
そして、視界に入った窓の外に目を疑った。


夜明けまではまだ時間があるはずなのに。
真夜中の窓の外はなぜかぼんやりと白く光っていた。

………?

窓に近づきやけに明るい夜明け前の街を見ると、湿った空気が頬をなでた。


霧……。
こんな季節に?

冷たい夜の街を包む真夜中の霧。
漂う白い紗幕の向こうから、低く船の汽笛が響いた。

そうか、ここは海が近いんだ……。

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