惑溺
マンションの6階から見下ろす霧に包まれた深夜の街は、仄かに明るくどこか不気味で、まるで深い深い海の底を覗いているような気分になった。
たまに横切る車のヘッドライトが霧に滲んで、静かな海底を行く深海魚のように見える。
キレイ……。
その不思議な光景にぼんやりとれていると、背後でチンと音がしてエレベーターの扉が開いた。
我に返った私は、エレベーターに乗り込み1階のボタンを押す。
少し古いエレベーターは私を乗せてゆっくりと沈んでいった。