惑溺
 

家に帰って、シャワーを浴びて、会社に行って、いつも通りに……。
やっと捕まえたタクシーの中で呪文のように繰り返す。


なかった事にしよう。
もうリョウには会うこともない。
もともと私とはなんの関わりも無い人。

彼を好きになったって、幸せになんかなれない。



それに、私には聡史がいるんだから……。



そう自分に言い聞かせながら、深い霧の中を行くタクシーの窓を眺めて、深くシートに沈み込んだ。







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