惑溺
昨日の夜塗ったさくらんぼの様につるりと透明感のある赤いネイル。
特に何も考えず、ただなんとなく手にしたその色だけど。
自分の指先にある色付いた爪を見るたびに、背筋がぞくりとする。
……赤いマニキュアなんてやめればよかった。
フラッシュバックのようにあの夜の出来事が甦る。
逞しい肩に浮かび上がるいく筋もの赤い爪跡……
私は自分のその赤い爪先が見えない様に、キツく手のひらを握った。
そうやって迷子のこどもの様に、膝の上でぎゅっと両手を握りしめながらゆっくりと周りを見回した。
私達と同じ様にテーブルに着きにこやかに話したり、ホールの両サイドに飾られたウエディングドレスを熱心にくらべたりする数組のカップル。
みんなすごく幸せそうで、楽しそう……。
そんなの当たり前なんだけど。
ホテルのブライダルフェアなんて、結婚を控えた幸せなカップルが来る所なんだから。