惑溺
「ウェディングドレスの試着はできないの?」
「試着は予約制になってるんですが……、ちょっと衣装部の方に確認して来ますね」
聡史の問いかけに、ちらりと時計を確認しながらコーディネーターの女性が立ち上がった。
ドレスの試着って、誰が着るの?
私がだよね?
突然試着なんて言いだした聡史に驚いて、私は慌てて立ち上がった女性を引き留めた。
「あの!いいです!私ドレスなんて……」
「大丈夫ですよ、すぐ確認して来ますので。
そうだ、デザートビュッフェのご試食ができますよ。
お待ちいただいてる間に是非どうぞ」
私の動揺を遠慮だと受け止めたのか、彼女はその笑顔を一ミリも崩すことなく席を立ち会場を後にする。
……本当にドレスなんて着たくないのに。
口を挟む暇もない営業トークは苦手だ。
ぼんやりとしている内に話がどんどん進んでしまう。
手元に残されたパンフレットに目を落としてため息をついた。