惑溺
 

仕事を終え、一人暮らしの自分の家に帰る。



簡単に夕食を食べ、手帳に今日の出来事を書きとめてから、お風呂にお湯をためる。
たっぷりのお湯と桃の香りのバスボム。
いつもは楽しい癒しの時間だったはずなのに、大好きな入浴剤の香りも今はどこかぼんやりとして楽しめなかった。

ゆっくり湯船につかりながら、お湯の中の自分の足をそっとなぞった。
足の甲から足首、ふくらはぎ、ひざ。
ひざの少し上。内腿のあたりで手が止まる。
そこにある小さな赤い痣。

それを見ると、きゅっと心臓のあたりが苦しくなった。

乱暴に私の膝を押し広げる指の感触。
太ももの上を這う唇の温度。
黒い髪の隙間から私を見る冷たい目。


それを思い出すだけでどうしようもなく泣きたくなって、私は温かいお湯の中でぎゅっと自分の身体を抱きしめた。
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