惑溺
「いきなり店に来て泣き叫ばれて、家にまで押しかけられて。
本気で迷惑なんだけど」
床も壁もコンクリートでできた無機質なその通路に、低い声が響いた。
蔑むような冷酷な表情で、リョウは彼女の事を眺める。
酷い事を言うリョウは今まで何度も見てきた。
だけど、こんなに残酷な表情を見るのは初めてで、リョウの事を心の底から怖いと思った。
「どうして?
あたしと別れたばっかなのにすぐ女作って、しかもこんな真面目で面白くなさそうな女ッ!
あ、あたしはなんだったの?」
綺麗に彩られた爪で私を指さしながら、彼女はリョウに向かって叫んだ。
その細い体が悲鳴を上げるような激しさで。
その姿が私には、苦しいくらい必死な愛情表現に見えた。