惑溺
 
酷い言葉を言いながら私の反応を楽しむリョウの顔を思い出す。
人を傷つけて自分の支配欲を満たす酷い男。

「でも……」

私が口を開きかけた時、ゆっくりと足音が近づいてきた。



「人の部屋の前で、好き勝手悪口言ってんじゃねぇよ」

冷たい声が通路に響く。
急に気温が下がった気がして寒気がした。

目の前の女の子の顔が強張る。
今にも泣きそうな、でもどこか待ちわびていたような複雑な表情で、声のした方を振り向いて、そして細くて白い喉をごくりと鳴らした。

エレベーターホールの方からゆっくりと歩いてくる背の高い男。
彼の部屋の前で向かい合う私たち二人を見下ろしたその黒い瞳は、怖いくらい冷たかった。
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