惑溺
 

聡史の声を無視して、灰色の重いドアを開けて外に出た。
扉一枚隔てた、はりつめるような空気の冷たさに、思わず体が小さく震えた。
飾り気の無いコンクリート製の廊下を歩き、エレベーターで降りていく。
古いエレベーターの小さなモーター音を聞きながら、ゆっくりと息を吐き出した。
聡史の部屋のある教員住宅を出ると、そこは一面白に覆われていた。



雪の夜はどうしてこんなに静かなんだろう。


クリスマスイブだなんて信じられないほど、街は静まり返り
人の気配の無い、廃墟の様に美しい白い街に

ただ、
雪だけが音もなく降り積もる。


< 291 / 507 >

この作品をシェア

pagetop