惑溺
私の口から吐き出された息が、白く染まって空に上る。
道路沿いに並ぶ家々には暖かい光が灯されているのに、そのひとつひとつに人がいてクリスマスの夜を過ごしているなんて信じられないほど街は静まり返っていた。
自分の呼吸する音以外、何も聞こえない雪の夜。
白い雪が街も、人も、全ての音も覆い隠してしまったように、静寂に包まれた白い世界。
聡史の部屋のある教員住宅を出た私は、白い粉雪が降りしきるその光景に
自分の目を疑った。
灰色の空から降り続ける真っ白な雪が、街灯の明かりを反射して空気まで白く染める。
その中で、そこだけ浮き上がる様に黒い人影があった。
ガードレールに腰をかけ、白い息を吐きながら私を見つけたその人は、ゆっくりと立ち上がった。
黒く長い前髪の間から覗くその瞳は、驚くほど優しかった。