惑溺
 
女なんて簡単に落ちると思っていたのに。
由佳は他の女のように俺の愛情を欲しがったり、愛されたがったりしなかった。

いつも泣き出しそうな不安げな表情で、俺を見上げる由佳を抱きながら、わざと傷つける事ばかり言った。
学校で担任教師の顔を見るたびに、
由佳はこいつに抱かれる時は、あんな辛そうな表情じゃなく幸せそうな顔をしてるのか。
なんて思っては、初めて感じる焦燥感に苛立ってばかりいた。


この感情を愛というのか、それともただの身勝手な独占欲なのか。
愛された事がない俺に分かるはずもない。


あの日、マンションの玄関で泣きながら去っていく由佳を、ひき止める言葉なんて見つからないまま、ただ残されたシュシュを握りしめていた。
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