惑溺
 

別に、何かが特別な女だった訳じゃない。
なのにどうしてあんなに会いたくて仕方なかったのか……。


始まりはただの興味本意だった。


酔っぱらった客が忘れていった赤い手帳。
何気なく開いて見ると、そこに書き込まれたのは平凡な日常。
仕事での失敗。友達との会話の内容。彼氏との約束。
そんな些細な事を、小さな文字で丁寧に書き込まれたその世界は、とても退屈で、でも穏やかだった。

俺にはまったく縁の無い世界だな。
なんて思いながらめくったページに、見覚えのある名前があった。
いつも穏やかに落ち着いた声で話す担任の教師の名前。

担任の婚約者。
それがどんな女なのか知りたくて、面白半分で家に呼んだ。
家にやってきたまったく俺に興味を示さない女を、無理矢理にでも振り向かせてみたくなった。
ただ、ゲームをするような感覚で部屋によび、罠を張る。
< 322 / 507 >

この作品をシェア

pagetop