惑溺
 
「あ、じゃあ博美に変わるね?」

戸惑いながら私の携帯を博美に手渡すと、

「もしもしリョウくん?久しぶり。
アタシ博美だけど、覚えてる?」

相変わらずフレンドリーな博美が明るい声で話しだした。

「あー、ありがとう。ねーびっくりだよね」

きっと博美と聡史の結婚の話でもしてるんだろうな。
なんて、笑顔で電話を持つ博美の左手にはまった、まだ真新しいプラチナの指輪を見てぼんやりとしていた。

隣から少し漏れてくる、リョウの低い声。
二人が和やかに電話しているのを聞きながら、少し冷めかけたコーヒーをゆっくりと飲んでいると、博美の声が低くなった。

「あのさぁ、リョウくん。
アタシ由佳が大好きなんだよね」

突然そんな低い声で何を言い出すの!?
二人の会話の流れがまったくつかめずに、驚いて博美を見ると、その表情は真剣だった。
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