惑溺


「ねぇ、リョウ」

激しく脈打つ心臓を落ち着かせようと、ゆっくりと息を吐きながら話しかける。

「何?」

「さっき電話で博美になんて言ったの?
博美が本人から聞いてって、教えてくれなかったの」

リョウは私の言葉に、口を歪めて意地悪に笑った。


「……さぁ、もう忘れた」


そう言って私の手を引いて歩き出す。


忘れたって。
たった今の話なのに。


「相変わらず嘘つきだね」

リョウの背中を睨んで悪態をついた。
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