惑溺


「タクシーいいよ。もう少し手を繋いで歩きたい」


三年前。
あんなに何度も抱き合っていたのに、今は自分から手を繋ぐだけでこんなに緊張してしまう。
恥ずかしくて、ドキドキしながらうつ向いた私に

「歩くの?
こんなに雪降ってんのに?」

リョウが冷たく言った。

「ごめん、そうだよね。寒いよね」

慌ててリョウの顔を見上げると、ひらりと小さな雪の粒が私のまつ毛に止まった。
私の事を見下ろすその表情は、冷たい言葉とは反対に優しく微笑んでいた。


繋いでない方の手で、そっと私のまつ毛に止まった雪の結晶に触れる。


リョウのこんなに優しい表情を見るのははじめてで
どうしよう。すごくすごく、ドキドキする。
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