惑溺
会社に勤めた事がないリョウには分からないよ、とため息をつきながら呟くと
『分かりたくもないね』
まるで私の事なんか切り捨てるみたいに、びっくりするほど冷たくリョウの声が響いた。
『もうすぐ終電なくなるけど、どうすんの?
今日は泊まるわけ?』
ソファーに腰掛けたまま、私の方を見向きもしないリョウ。
その、帰れよと言わんばかりのその態度に、カッと頭に血がのぼった。
床に置いてあったクッションをその顔を目掛けて力いっぱい投げつける。
『もう、帰る!!』
もしかしたら、怒って部屋を出た私を追いかけてきてくれるかも。
なんて期待をしながら、地下鉄の駅までの道をいつもよりゆっくり歩いたけれど、リョウは追いかけてはこなかった。