惑溺
このカクテルを飲むと出会ったばかりの頃を思い出して、いつも少しだけ切ない気分になる。
ゆっくりと一口飲んで
「美味しい」
と私が言うと、それをみていたリョウは優しく頷いた。
「ね、リョウ。
このカクテルの名前なんていうの?」
そうやって尋ねたのはこれで何度目だろう。
聞くたびにリョウは『教えない』そう言って意地悪に微笑むのだけど
それでも繰り返し聞いてしまう私。
そうやって勿体ぶるからには、カクテルの名前になにか意味があるんじゃないか、なんて余計に気になってしまう。
グラスを顔に近づけて、微かに感じるアーモンドの香りをかぎながらカウンターの中のリョウを上目づかいで見つめてみた。
目が合うと、リョウは私を試すように微かに顔を傾け、冷たい微笑で見下ろした。