惑溺
 
後頭部を大きな手で押さえ自由を奪い、リョウが私を見上げるようにして下から何度も唇を求める。

閉店後とはいえお店で、しかもカウンターの上で。
こんなキスをするなんて……。


非日常が感覚を狂わせる。



「ん……ダメ、リョウ……」

外の喧騒の届かない半地下の静かなバーの中。
互いの乱れた呼吸と淫らな口づけの音が、小さな店内いっぱいに響いた。



ああ、どんどん感覚が狂ってく

麻痺しているのか、敏感になっているのか
自分ですらよくわからない。


グラス一杯分の琥珀色のアルコールが、私を乱して狂わせるのか
それともこのリョウのキスが、私を甘く酔わせるのか

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