惑溺
 
ただ指先が触れただけで動揺するなんて。
中学生でもあるまいし。

なんでだろう。
この人といると自分でも理解できないくらい、些細な事で動揺する。
それを彼に悟られたくなくて、私は隣に腰を下ろした彼を無視してプリンの瓶の蓋を取り、それをひと匙口に運んだ。

口に入れた瞬間、舌の温度でとろける甘さ。
濃厚な玉子と強めのバニラの風味が香る、トロトロのプリンに思わず頬がほころぶ。

やっぱりここのプリンは美味しい!
このとっておきのプリンなら、いくら捻くれた彼だって素直に美味しいと認めるはず……

そう思って隣に座る彼の顔を盗み見ると、プリンを口に入れた瞬間少し眉をひそませていた。


あ、もしかして……。

「あの……もしかして、プリン苦手でした?」

私が恐る恐るたずねると

「バレた?実は甘いのはあんまり得意じゃない」

と、彼は口の中の甘みを誤魔化そうとするようにブラックのコーヒーを飲みながら苦笑した。
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