惑溺
 



「へぇ、松田さんっていっつもこういうトコで飲んでるんすか?
大人って感じ。カッコいー」




リョウのバーの前につくと、ライトのついたシンプルで洒落た看板を見上げ、矢野くんが楽しそうに声を上げた。


「いつもっていうワケじゃないんだけど、このお店をやってるのが……」

私の彼氏だから。


そう言おうとして少しためらったのは、なんだか恥ずかしかったから。


これじゃまるで彼氏を見せびらかしたいみたいだな、と思って、思わず言葉につまった。

「知り合いがやってるお店なの?」

お店の看板の前で黙り込んだ私に沙織が聞いてきた。

「あ、うん……」

「へー。
とりあえず入りましょうよ。俺寒くて凍っちゃいますよ」

大袈裟に体を震わせて笑った矢野くんは、半地下の入口に続く階段を下りて行った。
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