惑溺
矢野くんが音を立てて元気よく、古い木でできた重厚な扉を開く。
「わぁー!大人の雰囲気って感じー」
元々声が大きい彼は、3次会までに飲んだアルコールのせいもあって、いつもよりも更に大きな声で言いながら、無邪気にお店を見回した。
「本当だ。いい店だねー」
酔っ払いの沙織も、矢野くんの後からなだれ込むように店に入る。
静かに音楽の流れる落ち着いた店内が、酔っ払い二人のせいで一気に騒がしい雰囲気に変わった。
ちょっと、そんなに騒いで!
ほかのお客さんに迷惑になるんじゃ……。
恐る恐る扉から店内をのぞくと、カウンターの中にいたリョウと目があった。
リョウは一瞬驚いたように眉を少し上げてから、綺麗な口角を少しゆがめるようして、小さく微笑む。