惑溺
 
でも、まぁ。
沙織はちゃんと付き合っている人がいるし。
きっと酔っ払ってふざけてキャーキャー言ってるだけだろうし。
変な心配はいらないか。

そう自分に言い聞かせながら、奥のボックス席に座ろうとすると

「由佳、そっちやだ。カウンターに座ろうよ」

カウンターのリョウの目の前の席に、沙織が移動しながら言った。


「ちょっと、カウンターは他のお客さんがいるんだから、こっちの奥に座ろうよ」

「えー、俺もカウンターがいい!
なんかバーのカウンターで酒飲むのって、大人って感じじゃないすか?
俺、カッコいー」


そう言いながら、カウンターのスツールの上で楽しそうに足をばたつかせる酔っ払いの矢野くん。


矢野くん……。
大人はバーに来たくらいで、そんなにはしゃいだりしません。


「すいません。騒がしくて」

酔っ払い二人の襟首を引っ張りながら、カウンターの奥に座る初老の男性二人に頭を下げる。

なんだか、手のかかる子供の面倒をみてる気分だ。
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