惑溺
いつも彼が私に向ける、あの唇を歪ませるような意地悪な笑い方ではなく、綺麗な口角を微かに上げた穏やかで美しい微笑みで、沙織の言葉に耳を傾け談笑するリョウの姿は、
もう付き合って1年になる私の目から見ても、とても魅力的な男で、どうしようもなく胸がざわついた。
カウンターの一番端の席に座った私は、二人のその姿から目をそらして、手持ち無沙汰な時間と落ち着かない気持ちを紛らわすように、カウンターの古い桜の木の木目をゆっくりと指でなぞった。
「松田さん、酔っちゃいました?」
すぐそばから聞こえた声に驚いて顔を上げると、矢野くんが隣の椅子に座り心配そうに私の顔をのぞきこんでいた。
あ、私いつの間にか落ち込んでた。
酔っ払いの後輩に心配かけてどうする。
心の中でそう自分を叱りながら顔を上げて首を振った。