惑溺
「どうぞ?」
余所余所しいほど綺麗な微笑みで、リョウはカウンターの中から私を見下ろす。
寒い外から入って来たばかりで、まだ温まりきっていない指先で目の前のロンググラスに触れると、そのグラスの硬さと冷たさに、なんだか少し寂しくなった。
「乾杯しましょう、乾杯!」
陽気な矢野くんの声に、頷いて両手でグラスを引き寄せた。
「戸田さんと、松田さんと、俺の、来年の益々の発展とご健勝を祈念いたし……」
「何その乾杯の挨拶」
矢野くんの言葉に、沙織がたまらず厳しく突っ込む。
「矢野、あんた会社の1次会じゃないんだから、もうちょっと気の利いた事言えないわけ?」
「うーん。じゃあねぇ……」
気の利いた事と言われて、矢野くんは真剣に考え込んだ。