惑溺
 
一瞬ホッとした私を、綺麗な笑顔で突き落とす彼。
いい人かも、なんて思った私が間違いだった。
さらにガックリと肩を落とす私を見て、満足げに笑うその意地悪な表情。
絶対性格悪い。絶対。


「でさ、手帳のお礼がわりに部屋の掃除手伝ってくれない?」

もう何も言い返せずにいる私に向かって彼は当然のようにそう言った。

「え?なんで私があなたの部屋の掃除なんて……」

「リョウ」

「は?」

「あなたとか言われるの気持ち悪い。
リョウって呼べよ」

こんな魅力的な男にソファに並んで座った状態で、低く魅惑的な声で言われたら、どんなに理不尽な要求だってすんなり呑んでしまいそうだ。
この人は絶対ずるい。
自分の魅力をわかっててそうしてる。
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