惑溺
 
「お礼は何がいい?」

「お、お礼……?」

喉から絞り出した掠れた声が自分の声じゃないみたいだ。

お礼なんていらないから、私から離れて。
その瞳で私を見ないで。
その声で私に囁かないで。

自分の中で震える理性がそう叫ぶ。
でも、そんな願い、とてもじゃないけど彼に向かって言えるわけがない。

それじゃあ、私はあなたを意識してますって告白しているようなものだ。



「――お礼はキスでいい?」

耳元でリョウの低い声が、甘く響いた。
< 69 / 507 >

この作品をシェア

pagetop