惑溺
携帯の画面に映し出された名前を見てなんだかホッとする。
聡史からだ。
思わず頬を緩めながら携帯電話を耳に当てる。
「もしもし?」
『由佳、手帳は無事見つかった?』
電話から聞こえてきた聡史の穏やかな声。
私を少しからかうような口調は聞いてるだけで安心する。
「手帳はあったんだけど、すっごい腹立つ事があってね……」
聡史相手に、苛々を吐き出そうとして言葉に詰まり、まだ生々しくリョウの感触が残っている唇をそっと指でなぞった。
違う男にキスされた、なんて。
いくらなんでも言えないよね。
『どうした?』
「……なんでもない」
『変なの』
聡史は小さく笑っただけで、それ以上は追及してこなかった。