ランデヴー II





すぐ下の階にある販売戦略部へは、内階段を使うのが常だ。


会議などで席を外してないといいな……そう思いながら非常階段の扉を開けて下へ向かうと、それが取り越し苦労だったと知る。


目的の人物が、ちょうど下から上って来ることに気が付いたからだ。



その姿に、私は「あ……」と思わず声を上げた。


彼もすぐにこちらに気付いて私の手元の書類に視線を送ると、いつもと変わらない笑顔をその顔に浮かべる。



「坂下さん、お疲れ様です。ちょうど書類受け取りに行こうと思ってたんです」


「お疲れ様。ねぇ、倉橋君。私聞きたいことがあるんだけど」


ちょうど踊り場で鉢合わせた彼に、早速話を切り出す。


すると何かを感じ取ったのか、倉橋君は何だか少し落ち着きなさそうに視線を彷徨わせた。


それを見て、予感が確信に変わる。



「今村さんに、何を言ったの?」


私も少し余裕がなかったのかもしれない。


厳しい口調で問い詰めるように尋ねると、倉橋君が困ったような顔で私を見た。
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