ランデヴー II
それにさっき倉橋君に抱き上げられていたという現実が、私の意識を高揚させているのかもしれない。


ドキドキと、鼓動が止まらない。



「5時です。始発動いてるんで、帰りますね。寝てていいですよ」


そう言ってするりと私の手から離れていく倉橋君の後ろ姿を、ぼーっと見つめた。


もう少しで、倉橋君がいなくなってしまう……。



私は髪をくしゃくしゃと掻き上げてしばらく頭を伏せ、「んー」と背筋を伸ばした。


そして、手ぐしで手早く髪を整える。



勢いを付けてベッドから立ち上がると、倉橋君が廊下の向こうから戻って来る所だった。


水の流れる音から察するに、どうやらトイレに行っていたらしい。



私はすれ違いざまにキッチンへ行って照明を点けると、冷蔵庫から新しいペットボトルを取り出し、「はい」と倉橋君に差し出して見せた。


それに気付いた倉橋君は「あ……有り難うございます」と言いながらカウンター越しに手を伸ばしてそれを受け取る。


そしてぐりぐりと蓋を開け、中の水を一気に口に含んだ。



私は手持ち無沙汰に、何となく静かに倉橋君の挙動を見つめていた。
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