ランデヴー II
「寝てていいって言ったのに……」


カウンターに肘を突いてペットボトルを見つめながら、倉橋君がポツリと呟いた。


私も少し倉橋君の方へと近付き、流しの前に寄りかかる。



「うん……。でも目、覚めちゃったから……」


「すみません……」


目を伏せて小さく謝った倉橋君が、チラリと私に視線を向けた。


そして、再び下へと視線を落とす。



「トイレ、借りました。……引っ越し、したんですね」


「うん……」


キッチンのぼんやりとした明かりの下で、私は消えそうな声で頷く。


改めてそんな風に言われると、何だかあの頃の私達の時間が消えてしまったような気がする。



でも……それでいい。


そうしたくて、引っ越しをしたのだから。


全てを消してしまう為に。
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