ランデヴー II
……ほんの一瞬だけ重なり合い、離れていった唇の感触は、まるで甘い毒のようだ。


それは過去を思い出させ、そしてその続きがどれだけ私を満たしてくれるものなのかを知っている。



私はもっとと求めるように、倉橋君の腕に手をかけて背伸びをした。


そして自らその唇に、唇で触れる。



――その瞬間。


倉橋君がパッと弾けるようにして、私から離れた。


まるで突然我に返ったかのように目を見開く様子からは、少しの動揺が見てとれる。



「すみません……俺……。守山さんに、怒られますよね……」


視線をゆらゆらと動かしながら自嘲気味に笑う倉橋君に、私の心の熱い波が一気にサァッと引いていくのを感じた。


そう、これは賢治のことを踏みにじる行為なのだ――。



酷く傷付いた顔をした倉橋君に、私は自分の行動がどれだけ浅はかなものだったのかを思い知らされた気がする。


今倉橋君を受け入れた所で、結局彼の胸に背徳感を刻みつけるだけだ。


私がしていることは、賢治だけでなく倉橋君さえをも傷付けることなのだと。
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