猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した
前を見れば背後が疎かに、背後に気を使えば前が疎かに、更にはそこにはもう一人。集中が散漫になる。いつどこから来るかが分からないのは切迫してもいいものだが。
「ふふん、エレナが怖くて固まっちゃったかな」
余裕ありげに挑発までしたエレナ。そこに反応するほど暗殺者たちは並みではないが、懐からナイフを取り出し、殺害準備に取りかかっていた。
じりっ、と頂点ABCの内、エレナの右斜め後ろにいるBが足を僅かに動かす。エレナの目は垂直線にいるAへ。残りは意識外と言わんばかりに目も向けることなどなかった。
「……」
息を殺してBが踏み出す。やれると思った――そう、思ったんだ。
「ハズレー」
目線すらも向けていなかった、見なくともBが動いたと予見していたかのようにエレナは難なく身を翻した。
エレナの脇を通り過ぎる暗殺者。しまったと思うが早いか遅いか、それすらも無意味と言葉でなく肌に食い込む刃に教わった。