猫かぶりは血を被り、冷徹はささやかに一瞥した
「帰ったら殴りますっ、一発だけでもやりますっ」
「お前が一人喚いたところで、知らぬ存ぜぬを突き通されるだけだ」
気合い入った握り拳を解いてしまう元も子もなさ。知らぬ存ぜぬならば、エレナがそんな王を殴ったところで変わることなどないし、強いて言えば、エレナが牢獄生活を送ることになる。
「じゃあ、どうすれば……あ、だから首を持って行くんですねー。エレナを狙った暗殺者の首があれば」
「死人に証言などできないし、生きている証言としても『王を陥れるための罠』と流されるだろう。何にせよ、今回の件の糾弾など叶わない」
「こんなことをしたのにお咎めなしだなんて変ですよー」
「それが王だ。理不尽も叶う支配者に、罪を突きつけようとも戯言だとこちらが鼻で笑われるが――」