さくら色 〜好きです、先輩〜
私はなんとかこのギクシャクした空気を変えようと大会の話を切り出した。
「先輩、明日の決勝戦頑張って下さいね」
「ああ、頑張るよ。…でもまさか、本当にここまで来れるとはな」
先輩は遠い目をしながら呟くように言った。
先輩も恭介も、きっと他の皆も、明日が国立の決勝戦だなんてまだ信じられないんだろうな。
落ち着かなくて妙にソワソワしたり、この二人みたいに体を動かして気を紛らわしたり。
そんな皆の姿を思い浮かべると、口元に笑みが零れる。
「恭介も同じこと言ってました。あと、先輩には敵わないって」
「恭介が?あいつは荒削りだけど、絶対にもっと上手くなる。まだ一年だし、あと数年したら俺なんてすぐ抜かれるよ」
「先輩も恭介も羨ましいです。私には熱中出来ることなんてないから。友達も夢に向かって頑張ってるし…私だけ置いてけぼり」
里美は医者になる為に猛勉強中だし、那奈は通訳になりたいから留学したいってこの前言っていた。
将来の事、何も考えていないのは私だけ。