時は今



 そこで忍は四季が何を指してそう言っているのかを理解する。

「言われてみれば…ほんとだ。綺麗だね」

「戸棚に入ってるのも音階順に並べてみようか」

「バカ。怒られるよ」

 忍が笑った。四季はその表情を見て少しほっとする。

「…訊いていい?」

「何?」

「桜沢静和が恋人だったって本当?」

「…うん」

「由貴から少しだけ聞いた。忍と出逢った時のこととか…。亡くなってからかかってきた電話のこととか」

「そう」

 忍の表情がわずかに張り詰める。静かな瞳の奥に見えるのは何かに未だ傷ついている心。

「由貴の腕を振り払ったことがあるっていうのも本当?」

「うん」

 忍はただ短く答えるだけだ。否、そうすることしか出来ないようだった。



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