時は今
四季が横になったまま、向こう側に座っている忍に手を差し出した。
「──手」
「?」
「自分から握ったら怖くないと思うよ」
忍はためらいがちに四季の手を握った。四季は雨音のように穏やかに語った。
「僕、病気で倒れた時に元カノに捨てられてるんだよね。だから、僕は逆に手を振り切られるのが怖い」
「──」
「でも由貴が握っていてくれたけど」
こんなふうに。
忍はそこまで聴いて、ほろ、と透明なものが頬を伝った。
「──違うの」
今まで抱えていたものがあふれて、止まらなくなった。
「由貴の手を振り払ったのは…そうじゃないの」
(だって)
好きになってしまいそうだったから──。
「忍?」
「ごめん」
涙を拭うと忍は立ち上がり、出て行ってしまった。
四季は忍の言葉と涙の意味とを反芻し、まさか、という考えがよぎってゆく。
忍は由貴のことを──。