時は今



 部屋を出たところで、学校から帰って来たばかりの美歌に会った。美歌は四季と3つ違いの妹である。

「あ、由貴お兄ちゃん。嬉しい。来てたの?」

 美歌は由貴の姿を見ると可憐な笑顔を浮かべた。

 美歌は由貴が好きである。四季もそうだが、由貴も四季も女の子の美歌には優しいのだ。それと由貴が四季を大事に思っていてくれるところも好きだ。

 無論美歌がいちばん好きなのは実兄の四季で「美歌のお兄ちゃんを大事にしてくれる人はいい人」という思考回路であるためなのだが。

「お兄ちゃんと帰って来たの?」

「うん。四季、ちょっと熱があるみたい。朝からピアノ弾いていたし…。ソファで眠ってるけど、寒そうだったら何かかけてあげて」

「うん。いつもありがとう、由貴お兄ちゃん。…ねぇ、白王の試験ってやっぱり難しい?」

「試験って…入試のこと?美歌ちゃん白王受けるの?」

「うん。そしたらお兄ちゃんと一緒に学校行けるもん」

 美歌は無邪気にそう言った。

「あーそいつの寝言は気にしなくていいから」

 美歌の後方から和服の女性が歩いて来た。四季の母親の早瀬である。

「あんた、自分の成績わかってんの?四季が由貴の学校に編入出来たのは、四季がそれなりに出来る頭だったからであって、あんたがすんなり四季と由貴と同じ学校に行けるとでも思ってんの?」

「行ける行けないじゃなくて、行くの!もう決めたの!」

 強気に言い切ると、小さな紙切れを早瀬に突きつけた。早瀬はそれを見て少し感心する。

「ボーダーライン?…へぇ、あんたにしては頑張ったね」

「入試まではまだ時間があるもん!ね、由貴お兄ちゃん」

「そうだね…。美歌ちゃんが白王受ける気あるなら、うちの親父に過去の入試問題あるか聞いてみようか?」

 由貴の父親の隆史は数学の教師で、クラス担任である。

 美歌は元気よく頷いた。

「うん!あったら嬉しい!」

 早瀬はハァとため息をつく。

「こんな娘がめずらしく勉強する気になってんのはいいことなんだけどさ、まかり間違って受かったとして授業について行けるのかね?苦労すんのはあんただよ」

「お兄ちゃんと一緒の学校行けるなら苦労じゃないもん!」



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