時は今



 美歌は四季の部屋のドアを軽くノックすると、そっとドアを開けた。

「──お兄ちゃん?」

 ほの暗い部屋の中、ソファで四季が眠っているのが見えた。

 美歌は女の子らしい外見とは裏腹に、早瀬に言わせれば「野放しにしていても生きていける頑丈な子」である。

 たとえば痴漢に遭って、素手で撃退してしまうくらいには強いのだ。

 身体を鍛えることが好きで、趣味は空手。ただし女らしさを磨くことにも余念がない。

 理由は「お兄ちゃんと並んで釣り合いの取れる女でなければプライドが許さないから」だ。

 美歌は四季に近づくと額に手をあてる。

(ほんとに、美歌の半分くらい分けられると良かったのにな…)

 やるせない気分になる。

 薄手のブランケットを持ってくると四季にかけた。

 もう一枚持って来るとそれは自分が羽織り、四季の傍らに身を寄せる。

(ふふ。幸せ)

 彼女じゃなくてもこんなに近くにいられるのは妹の特権だ。





 どれくらい経ったのか、四季が目を醒ました時、ウェーブのかかった柔らかい髪が視界に映った。

(──女の子?)

 美歌だ、と気づくのにそう時間はかからなかった。無防備に寝息をたてている。美歌は度々こういうことがあるのだ。

(そうか…。あのままうとうとして…由貴は帰ったんだな)

 四季は横になったまま美歌の髪を撫でる。

「美歌」

「ん…。お兄ちゃん?」

 四季の声に美歌はすぐに目を開けた。美歌は四季に髪を撫でてもらうのが好きだ。大事にされていることがわかるからだろう。

 他の男に撫でてもらっても同じようには思えないだろうが。

 美歌はふふっと笑うと四季の頬にキスをした。四季が困ったように「美歌」とたしなめる。

 美歌は四季に「お兄ちゃんも美歌にキスして」とねだる。

「あのね、美歌」

「いいでしょ、おはようのキスくらい」

 こういう時の美歌は可愛い。というより純粋に好かれていることが伝わって来るから可愛いと思わずにはいられないという方が正しいだろうか。

 四季が美歌の頬にキスをすると美歌は嬉しそうに「お兄ちゃん、大好き」と言った。



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