時は今
由貴の話をしている時の四季の顔は優しい。美歌はその顔を見ているのが好きだ。
「──由貴が迷っているみたいなんだよね」
「由貴お兄ちゃん?」
「うん。由貴って何でも出来るように見えて…でも何て言うんだろう、本当に目指したいものを何処に定めていいのかがわからないみたい。それで、ピアノにまた興味を持ち始めているみたいだったから、何か見えるまではピアノを弾いてみたらって言ったんだけど」
「そっか」
美歌は少し思うところあるように言った。
「美歌は由貴お兄ちゃんの気持ち何となくわかる気がする。美歌もね、空手もバレエもやっているけど、将来的にその道に進もうって思ったことないの。──でも美歌は将来もう決めたけど」
「決めた…って」
「美歌が家を継ぐからお兄ちゃんは何も心配しないでピアノを弾いて」
「──」
「美歌、お兄ちゃんと違って頑丈だし、そう簡単には折れないから大丈夫。お母さんにもそう言ったし」
片手で中華鍋を持つ美歌が一瞬早瀬とだぶった。
「──美歌」
「というよりお兄ちゃんはピアノを弾かなきゃだめ。そのために生まれてきたような人だもん。それが家に縛られてちゃ、お兄ちゃんの才能が勿体ないと思う」
妹はそんなことを考えていたのだ、と四季は美歌を見つめる。美歌は「出来たよ」と炒飯を盛りつけた。
「お祖父様もわかってると思う。だって、お兄ちゃんにピアノを買ってくれたのってお祖父様なんでしょ?お兄ちゃんを家に繋ぎ止めて置きたいんだったら、グランドピアノなんか買い与えてないと思う」
お祖父様というのは綾川隆一郎のことである。早瀬と隆史の父にあたり、四季・美歌・由貴にとっては祖父にあたる。