時は今
隆史が洗濯物を干していると、ピアノの音が聴こえてきた。
由貴だ。
四季が白王に編入する前後から、由貴の中で何かあったのかピアノをまた少しずつ弾くようになったのだ。
ハノンの教本、ブルグミュラーあたりから丁寧におさらいし始めて、今はやめた頃に弾いていたベートーヴェンの悲愴までたどり着いている。
静かな曲を弾いている。聴いたことはあるが、由貴が当時弾いたことのない曲だ。
隆史は干し終えると由貴が弾き終えるのを待って声をかけた。
「何ていう曲?」
「ショパン。雨だれの前奏曲。四季の選曲」
「──いい曲だね」
「うん。四季の家でも弾いてきた」
「そういえば朝も四季くんと弾いてたって?吉野さんがすごい曲弾いてたって言ってたよ」
「ああ…。四季の弾くレベルの曲に合わせるとそうなるだけの話だよ。弾く前に練習させてもらったし」
「またピアノ弾きたいの?」
「──。わからない。でも久しぶりに四季と弾いてみたら、やっぱり楽しかった」
由貴はそう言って少し笑った。
そういえば四季の前でも泣いてしまったのだ。由真がいなくなってしまったことはやはり自分にとっては思った以上に深い傷になっていたのかもしれない。
四季は一度死を覚悟したこともあるからか、そのあたりは妙に落ち着いたところがあって、由貴を支えようとしてくれているようにも見える。
「由貴くんは四季くんがいて良かったよね。四季くんにとっても同じことが言えるかもしれないけど」
「…そうだね」
「ところで」
「また何?」
「四季くんは可愛いのに由貴くんがこうもツンデレなのは何故!?」
「何の話。ツンデレじゃないし」
「小テストの話!」
「俺、何点だったの」
「何でどんな問題出しても由貴くんパーフェクト解答なわけ?しかも数学に限って!」
ということは満点である。
「何で?親が教えている教科勉強したら、普通喜ばない?何が不満なの?」
「由貴くんにわからないものがなかったら僕に教えられるものがないって話!」
「…だって、やだよ。家に帰ってまで『由貴くん、ここわからないの?』って授業とかされたら」
「……。もー四季くん溺愛する」
「ううわ、四季、可哀想」