時は今
風呂からあがって、ベッドの上で数学のノートを広げる。由貴の解き方は四季にはわかりやすい。
というより由貴がいつ四季にノートを貸してもいいような書き方をしているからだが。
由貴は教科書と併用の参考書執筆者に向いているのではないかと思ってしまう。
数学が思っていたより早く終わってしまい、英語の本を読み始めた。
活字を読むのは好きだ。最初は外国語のアリアを聴きながら訳を目で追うことから始まって、最近は日本語訳の本が出ている外国語の原書を読むようになっている。
文法は暗記だけはするがあまり好きではない。言葉のイントネーションや意味を味わう方が楽しいのである。
由貴には「ちょっと考えられない勉強の仕方」と言われたが。
読み進めていると、眠くなってきた。このまま眠ろうかと考えていたところで、携帯の音に目を覚ます。
メールだ。
『揺葉忍です』
タイトルを見て四季は一瞬目を疑う。本当に返って来るとは思っていなかったからだ。
本文を開いた。
『さっきのメール、四季のくれた言葉にほっとした。このメールもどう書いていいのかわからなかった。すぐに返せなくてごめんね。私反応するの下手だから気にしないで。おやすみ』
意外といえば意外、忍らしいといえば忍らしいメールだ。
予想外のアプローチに、考え込んでしまったのだろう。
肝心の由貴のことについてもふれてもいないあたりが相当不器用だ。
だがそれ以上踏み込むのは忍にとっては優しくないことのような気がした。
四季は携帯を片手に言葉を探し始める。
『そういう時ってあるよ。僕もこういうメール考えるの苦手だし。でもさっきは忍が心配だったからつい送った。メールが来てほっとした。ありがとう。おやすみ』