時は今



「──女子がしおれてますな」

 智がだし巻き玉子を口にしながら、いつになく静かな教室に感想を述べた。涼がそれに頷く。

「四季くんがいないと音楽が消えちゃったみたい」

 黒木恭介もどつく相手がいなくてつまらなそうである。

「おい、由貴。あいつそんな大変なのか?」

「俺は医者じゃないから何とも言えないけど、貧血とかあったり熱が続いたりするようならすぐ病院に来るようには言われてるみたい。今日は定期検診。電話では元気そうだったよ」

「フーン」

「本当は四季、あと数ヶ月くらい休んでも進級は出来るみたいなんだけど、学校には出来るだけ早く戻って空気に慣れておきたかったみたい。医者にピアノも止められたらしいんだけど、四季はピアノをやめる気はさらさら無くて。休んでいるうちに指先の神経がダメになってしまうのは怖いからって、ピアノも半ば無理を言って弾き始めてるし」

「マジか…」

「俺はピアノの弾くのはかえっていいことだと思ってるけど。弾き過ぎなければね」

「──四季、そんなに無理してるの」

 心配げな声がした。

「忍」

「四季来ているかと思って話しに来たんだけど…お休みなの?私、もしかしたら無神経なお願いしたかも」

「無神経って…。‘森は生きている’のこと?」

「──うん」

「四季は弾きたいって言っていたよ」

「でも」

「四季、昨日弾いていたよ。本人はまだ弾き方に納得いっていないみたいだけど。──もし、四季ひとりでピアノソロが負担なら、別の楽器でカバーする手もあるんじゃないの」

 編曲者の涼が「もし四季くんが負担なら、四季くんのために楽譜考える」と言った。

 すると智が「クラシック音楽のこと、よくわかんないけどさ」と口を挟んできた。

「何で?その曲って涼と涼の兄貴がその音楽にするのがいちばんいいって思ったからその楽譜になったんだろ。それを妥協することねーよ。ピアノソロ負担なら、分ければいいじゃん。四季と会長が昨日弾いてたみたいに。第1ピアノ、第2ピアノで。会長なら四季のピアノに合わせられるし。そんなん出来ねーの?」



< 162 / 601 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop